更衣室の中のさざんか、 手にはレースと花柄モチーフメインの服。
持ったそれを飽きれたふうに見下ろしつつ
顔は嬉しさを隠せないでいる。

　「憧れたことがないとは言えない。」
　まったくもって。こんな機会でもないと着る事はまあまずないし。 先輩の好みらとあらば！
　「うん、うん！」

　一人でつぶやいて覚悟を決める。 袖を広げて鏡で合わせてみる。かわいい。 いったん更衣室のハンガーに服をかけて、いざ。

　「えっと…、あは、はは…」
　シルエットは普通にドレス、ってドレスなんてまず着た事無いんだけど、ちょっと適当。 姿見に映ってるのはそれだけじゃなくて装飾がたっぷり、いやー。 朝から急かされてちゃんとお化粧してなかったけど、 厚めにはたいたファンデーションの上からでも顔が赤いのがわかる。 落ち着け、自分、耳まで真っ赤じゃないの。

　ふっと身体の向きを変えて鏡が目に入らないようにした。 してから更に目を閉じて自分の胸を押さえた。 深呼吸、吸って、吐いて、もう一度。 とりあえずサイズ、…ちょっとゆるいところがある。 丈は、大丈夫。ロングは久しぶりだけどこんなで平気なはず。 とはいえ。
　「店員さんには見てもらわないと解らないか。」

　あ、自分ちょっと冷静。
　「すいませーん。」

　「どう？」

　「お、お、おー、おー」

　「はい、足元失礼致します。…はい、大丈夫ですね。 どこかきつい所や緩いところはございませんか。 はい、大丈夫ですね、こちらちょっと押さえておいて頂けますか。」
　広史さん、あー見てる見てる。見られてますね。 あつ、熱い。いやいや、耳が。 いや、イヤーで耳じゃなくって。 自分で自分にツッコんだ。緊張してるんだか冷静なんだか。

　「少々失礼します。」
　何時の間にか針だの持ってきた店員さんと更衣室に二人きり。 あれ、何時の間に扉閉めてた。
　「こちらをこうお直し致しますと…」
　そう言ってつまんで引っ張ってクリップで留めて、やー、この人、手、綺麗だな。
　「如何でしょうか。」
　促されて鏡を。
　「わ、か…」

　さすがに自分で自分を言うのを人に聞かれるのは。

　「とても良くお似合いですよ。彼氏も見とれていらっしゃったぐらいですものね。」
　「あ、いや、そんな…、うーん、え、まあ。」

　「見ていただいては如何ですか。」

　…とかなんとか。



　帰ってからなんどか着たり脱いだり繰り返していろいろ。

　それ以外はノーコメント。